映像つくる目線で見る映画鑑賞『トップガン・マーヴェリック』
映像制作者の目線でじっくり見るトップガンマーヴェリック
トップガン2ともいわれる大ヒット映画『トップガン・マーヴェリック』を、映像の見せ方の勉強として細かくみていきます。*ネタバレありありなので、未視聴の方はご遠慮ください。
マーヴェリックはオープニングからすごい『オープニングの15分に魂を注ぎ込む映画の世界!』
オープニングは鐘と共に始まります。
まだ本編の始まる前、制作会社表示の時点ですでにトップガンのテーマ音楽と鐘の音がゆっくり流れ出します。
旧作のトップガンを見たひとはここでもうワクワクと感動の予兆に心が騒ぎます。
旧作のトップガンを見たひとはここでもうワクワクと感動の予兆に心が騒ぎます。
そして、トップガンというあの見慣れたタイトルが表示。それに続け『マーベリック』のマークが出現するのに合わせて再び鐘が鳴るのです!
ここだけで始まった〜とファンはなるのですが、そこからの・・
一転して『デンジャーゾーン』!!
出だしの静かなテーマから転調して、「トゥル、トゥ、トゥ、トゥ〜」のロックンロールへ。痺れるギターの音色「デンジャーゾーン」
キターーーーーーーーー!!な瞬間で、ガッツリと心をもっていかれます。
映像は巨大な米国海軍の軍艦に艦載された戦闘機や発艦の準備をするクルーたちを移します。独特の動きが戦闘映画の雰囲気を一段と盛り上げる作りです。まだ主人公は登場しません。軍艦と軍人がここではメインなのです。
そして、轟音で飛び立つ戦闘機。ここでの発艦のワンカットが生々しくリアルなのです。戦闘機の後方側、船に設置されたカメラが後ろ向きの戦闘機をとられています。そこへ発艦するさいに飛び散る飛沫がレンズへ飛び散るシーンが一瞬だけうつるのです。ビシャっという感じで画面に貼りつく汚物。瞬きすると見逃す場面ですが、この細かさがリアルな雰囲気をかもしだすんでしょうね。
他にも甲板上でワイヤーが張り詰め、金属の線が引っ張る音などもスローモーションとともに表現され場面を盛り上げます。
<やっと登場するトム・クルーズ>
勇ましさと軍事力をみせつける圧倒的なオープニングがひと段落すると、やっと主人公のトム様が登場します。立派な飛行場のガレージでセスナ?をメンテナンス中のトム。
そこに過去の戦友であり、トップガン1で相棒だった男グースの写真が映ります。ここがまた渋くて、死んでしまった過去のグースの写真から彼の息子の写真へピント移動していくんです。ここどうやっているのでしょうかね〜。レンズの操作でピントをずらしていくのが普通なんでしょうけど、写真の並びがけっこう並行なので、被写界深度の差異が少なそう。もしかしたら映像の後処理で編集ソフトで調整しているのかな?などと考えてもみました。
<トム・クルーズの疾走感を一掃高めるカメラワークの場面>
トムが乗るバイクもトップガン1では重要な乗り物のひとつです。もちろんマーヴェリックでもそれを忘れていません。シートを剥がしたときに現れる使いこんだ車体とKAWASAKIの文字。そして基地までの荒野を疾走していくのですが、ここのカットがまた秀逸。
バイクが画面奥へ向かって疾走するのをカメラは後ろから捉えます。そしてトムが小さくなっていくわけですが、さらに同時にカメラがズームアウトで引いていくんです。高速なバイクのスピードとカメラが引くことで出るスピード感が、ここで倍増されカッコいい疾走感を演出しています。
<Top Gun Maverickの画面色調とカラーグレーディング>
映像作品はカラーグレーディングという色調整をほどこすことで映画全体の雰囲気や世界観を作ります。話題になったのは『バットマン』のグリーンを濃いめにのせた色調や、『ダンケルク』のうっすらと緑がかったブルーグレーがのった映像などがあります。
ここでトップガン・マーベリックを振り返ってみます。
ここでトップガン・マーベリックを振り返ってみます。
前半は夕方ぽい黄色基調カラグレーディンクが多いようです。夕方の沈みゆく雰囲気と初回作品から年齢を重ねて中年、さらには壮年へと移り変わったトム・クルーズを表現しているかのようです。
ところが、敵地に乗り込む戦闘の本番だけは青基調になります。かっちりとした背景と雪、空、戦闘機などが全体的に青を基調としたパッ切り映像になります。外の雪も影響してかスッキリした画面です。
また、このあたりで登場する対角線に画面を切る航路のカットなども画角構成が丁寧です。
<曲が映画を指揮する>
トップガンに限らず、多くの映画は劇伴という曲によって雰囲気をつくるものですが、トップガン・マーヴェリックではその劇的な効果が、わかりやすく使われます。
たとえば、トム・クルーズが紆余曲折を経て、またトップガンというチームに戻るシーンでは、上官が「トップガン」というセリフにあわせ鐘がなり曲が始まります。劇的です。
もちろん前作からの引き継ぎで使用した曲も印象的に使われます。親友グースがかつて弾いたピアノ曲を思い出させるように、息子ルースターが弾くピアノ。思い出が曲からはじまる。
<ハリウッド屈指の細部にわたる映像表現をトムのヒゲにみた!>
アメリカ映画界の大作として一流の映像技師たちが画面をつくっているわけですが、それを表すシーンがヒゲにありました。トムの髭です。
ドラマの後半で友人でもあり上官でもある軍部トップのアイスマン亡くなった時です。トムは教官も首になり、希望をたたれてしまいます。恋人の家の玄関で弱ったトムのバストアップの映像が映されます。希望も消え、うなだれたトムの顔。顎には白髪が目立つほど老いて弱った雰囲気。
うなだれたトム・クルーズ!ここがポイントです。
弱さと落ち込んだ雰囲気を表すためにハリウッドがめっちゃ仕事してます。
みなさんも巻き戻しとか早送りをしてトムクルーズの髭を各シーンで確認してみてください。演出としてそれぞれのシーンに合わせた髭の剃り具合が微妙に調整されているのです。そして前述の項垂れるシーンです。ここで、トムの白髪混じりの髭にスポットがあたります。文字通りの照明なのか、映像の後処理なのかは不明ですが顎髭の白髪が目立つように撮影されているんです。一見注意してみないと見落としがちな身近なシーンですが、ここまでやるのかという細かさがさすがハリウッド。演技プラス演出プラス、光や映像の総合力で表現された小さなシーン。仕事してますね〜
<トップガンにみる「大切なもの」の写し方>
トップガンは戦闘機乗りの物語なので主役はパイロットと戦闘機ですが、場面によっては機体そのものではなく煙を主役に画面構成をつくるなど工夫をこらしたシーンが雰囲気をもりあげます。
また、「大切なこと」の取り上げ方にも映画的な見せ方があります。
例えば、恋人に大事なこと告げる深刻なシーンがあります。ここではセリフは無音です。大切なことを相手に伝えているのに言葉は観客には聞こえない演出です。トム本人が「敵地へ出撃することが決まった」と恋人に告げる大切なシーン。彼らの神妙な雰囲気と抱擁。心配とそれでも送り出さなければならないという葛藤。一切のセリフを無音にすることでより印象的に仕上げた作り。俳優にしゃらべらせない潔さ、です。
例えば、恋人に大事なこと告げる深刻なシーンがあります。ここではセリフは無音です。大切なことを相手に伝えているのに言葉は観客には聞こえない演出です。トム本人が「敵地へ出撃することが決まった」と恋人に告げる大切なシーン。彼らの神妙な雰囲気と抱擁。心配とそれでも送り出さなければならないという葛藤。一切のセリフを無音にすることでより印象的に仕上げた作り。俳優にしゃらべらせない潔さ、です。
または、別の例でいえばグースの息子ルースターが出撃時に緊張から過呼吸になり弱みをみせているシーンも無言です。呼吸音を他のメンバーと変えることで彼のナイーブで弱腰になってしまう気持ちを表します。
<映画終盤でも手を抜かない音・画面>
終盤での出撃。甲板上で戦闘機に乗り込むシーンがありますが、ここでもカメラ人、映画製作陣は気を抜きません。戦闘機の窓ガラスに油膜由来でしょうか?虹色がひっそりと映るといった小さな部分も丁寧に撮影構成されています。
音楽が句読点のように場面をもりあげるきっかけになっているのがトップガン・マーヴェリックですが終盤にその見せ場をつくります。
ちょっとわらってしまう敵地F14という旧式のアメリカ戦闘機が置いてあるところ。コメディな雰囲気なのですが「この旧式でなんとかやるぜ」というのが年老いてなお体を張った撮影に自ら挑むトム・クルーズとしての意気込みとモチベーションを表しているように思います。そして、この旧式戦闘機がなぜか敵地にあり、それを乗っ取ってトムが動き出す。そのドラマチックな展開が知れ渡るシーンで「F14マーベリックだ」というセリフに再びあの鐘の音がスピーカーを鳴らします。
音楽の仕込みが徹底してますね〜
そしてオーラスへ向け、敵の最新鋭戦闘機との逃避バトル。
レーダーが使えないように逃げ込んだ渓谷で、滝をかすめる空中戦があります。そこでは滝を爆風がかすめ、水流から飛沫がとびちります。演出が冴えてる。
ついに無事に帰ってきたトム・クルーズは、初代トップガンのときにそうしたように管制塔を掠める飛行をみせます。ここでも音楽です。管制塔を通過と同時に聴き慣れたあの音楽が奏でられ観客に最後のカタルシスを与えるのです。
本当に終わりの終わり、映画のオープニングシーンと同じガレージの場面。しかし、オープニングでは一人だったトムの横ではルースターが作業を手伝っています。最初と最後を合わせた演出ですね。
そしてその整備中の機体部品の間から恋人ペニー子供が見えるという画面構図。
そしてその整備中の機体部品の間から恋人ペニー子供が見えるという画面構図。
恋人をのせて飛行機が空を飛び、映画は終了します。ところが、ここにも一捻りあるんですよ。憎い演出が。
気付かれた方もいるでしょうか。初期トップガンでは飛行機は同じような夕刻のラストシーンで左へ消えて行きます。しかし『トップガン・マーヴェリック』ではその飛行機が画面の右へ見切れていくのです。ああ今回は逆へ、別の人生の在り方へ、トムは進むんだなと思わせて終わりかけます。
そこで最後の演出です。
飛行機が画面外からもう一度画面内へ現れるのです。そして、夕暮れをトップガン1と同じ左の方角へ消えていきます。トムは変わらない、いつまでたってもトムなんだと暗に語って映画は幕を閉じます。
細かいね〜、ハリウッド大作といえどもここまで手を抜かずにやり切るのは、トム・クルーズが作る映画だからと言っても過言ではないかも知れません。
脚本のありきたりさや、倫理とか政治とかを抜きにして、構成や細かな部分でハリウッド恐るべしな映画でした。
『トップガン・マーヴェリクス』は現時点ではアマゾンプライムでトップガン旧作・新作とも視聴可能なようです。こちらから飛べます→
*2024/03時点ですが、amazon primeに入っているかたは月額料金のみでみられましたよ。
見比べると面白い点がいくつも見つかります。是非GWにでも合わせてご確認ください!
今日はこのあたりで。ではまた『映像制作者目線で見る映画鑑賞』でお会いしましょう。
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