【映画レビュー】『ベルファスト』は北アイルランド版ニューシネマパラダイス?監督の幼少期と民族紛争
ケネス・ブラナー監督が少年期を過ごしたた街Belfastのストリートを社会問題を下敷として描いた作品
アイルランドと英国の民族問題を、ブラナー監督の過ごした小路を中心に見つめた軽快な作品。民族問題を扱うと重くなりがちだけれど、この『ベルファスト』ではそれが表面上はある種の軽快さを持ったまま展開する。というのも主人公は小学校に通う幼い男の子で、彼の目線で見ればなんで紛争が起きているのかわからない。好きな子は対立する宗派の子だし、近所の人もみんな優しくしてくれるから。
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『ベルファスト』あらすじ
1968年の北アイルランド、ベルファストの街は紛争の中心地としてテロやそれに対する報復などで険悪な雰囲気に満ちている。そんなベルファストの小さな道にある一角でプロテスタントとカトリックの住人同士が共生している一角がある。その町内は外で子供たちが自由に遊び、陽気な人は歌を歌い、心地よく住人たちが暮らしている。この街角で育ったバディ(buddy)という主人公の少年も大好きなお爺さんやおばあちゃん、両親や兄弟と楽しく暮らしている。ところが紛争の意味も分からない年端の行かない子供たちも次第にこの民族紛争(宗教紛争)の激動に巻き込まれていく。平穏な暮らしを求めて家族はこの街を捨てるのか、それとも愛すべきこの通りを生きていくのか。時代や民族に翻弄される北アイルランドの街ベルファストの家族ドラマ。
この映画を見る前に知っておくと納得するいくつかのポイント
・主人公はプロテスタント(イングランド側民族)を信じる家族で、町で暴動を起こしているのはカトリック(アイルランド系の民族)であるという点。つまりイングランド側の貧しい家族からみた町の様子であるという点。
・舞台である北アイルランドの宗教は45%がカトリック、43%がプロテスタントという割合で現在でも拮抗しており民族間問題の主要要因の一つになっている。(一方で北ではない”アイルランド国”の宗教は80%以上がカトリックで愛国心が高いとされる)
・歴史的にはアイルランドの先住民が英国の暴政に押しつぶされ苦渋を舐めてきた。そこからテロ行為を含めた独立運動が長く続いている。今回のベルファストはその紛争が激しくなった舞台だが、主観としては英国側からみたものだということ。
参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/北アイルランド
・お父さんやお母さんおばあちゃんという呼び名だけで主人公の家族に役名が与えられていないこと。監督の意図がこのことから少し理解できます。
映画『ベルファスト』の特異な点
社会問題を扱いながらも軽快な映画に仕上がっています。Amazonでも作品の仕分けにこんな表記が”恐ろしい””楽しい”↓
ここからも分かる通り、社会問題を扱いながらなぜか軽い。その理由ははなんだろう?
以下にいくつか書き出してみました。
音楽が明るく挿入される
・本来ならば恐ろしい暴動のシーンでもギャップすら感じるほどに音楽はポップなものをあえて使っています。さらに白黒の洒落た写真集のような美しい画面が多いので”悲劇”とか”辛い”という現実が全面を支配していない作り。これがこの映画の特徴で軽快さの元になっています。(一方でケン・ローチ作品を見ている人には物足りないと感じる原因にもなり得る)
随所に皮肉
・特にお爺さんが皮肉を言います。それがちょっと笑える上に真実をついていてポイントになっています。またお父さんも皮肉を交えます。例えば子供が「カトリック教徒とは結婚できないの?」とお父さんに尋ねます。お父さんは「そんなことはないさ、ヒンドゥーだってなんだって」とリベラルな答えをするのですが、最後に「でもそうしたら俺も懺悔(カトリックのしきたり)しなきゃいけないのか、それは問題だな」というのです。このような会話が随所にあります。
子役が素晴らしい
・子役の演技がカワイイ。めちゃくちゃ可愛すぎるので絵の雰囲気が優しい。そして、このバディという主人公の少年は、走る姿やちょこちょこと歩く姿がとんでもなくうまい。というか自然なのかもしれないけれど、この走り方、歩き方は幼少の短いひとときのみに許され、愛くるしさに溢れています。子供の走りを撮影したものとしては一級品だと思います。めっちゃ自然です。
白黒のもたらす受け取り側の幅
映像を白黒にしたことで、片側に感情移入しすぎないで色んな立場で画面を見ることができる気がします。民族問題を扱うと、どうしてもされた側からの視線に熱くなるきらいがありますが、この映画は公平とまでは行かないまでもそういう意識ではないところの物語、つまり子供目線を基本として描いています。そのおかげで出来事に感情を入れすぎずに見渡すことができていて、そのことに白黒の方式が助けになっていると感じました。
北アイルランドに関係する過去の映画
アイルランドと英国の問題って根が深く、歴史がありすぎてどの立場でものを見ていいのか分からなくなりがちです。ということでここからはアイルランドと英国の歴史問題を扱った映画をいくつか紹介します。
○『グッド・バイブレーションズ』
同じベルファストを舞台にした作品で、北アイルランドにあるレコードショップの不屈の主人を描いた実話の映画。アイルランドのバンドが襲われて殺され、町の治安が悪化する中でパンクロックレーベルとレコードショップを作り、苦境のなかでもがきながらも音楽を手放さず、1970年代を不屈の魂で生きた主人公を音楽と共に描いた作品。実話の持つ強さが溢れています。
AmazonPrimeVideo→グッド・ヴァイブレーションズ(字幕版)
○ケン・ローチ監督『麦の穂を揺らす風』
1920年代に起こった英国からのアイルランド独立運動を深くシリアスに扱った名作。社会問題を真摯に、自分ごととして受け止めさせる作品を多く残してきた実力派のケン・ローチが民族間の複雑な問題を深く心に刻ませます。ヒーローを描くのではなく、宗教や民族というもののもつ複雑さや根深さを真正面から描き切ったまさに名作。今回のBelfastとは異なり、どっしりと重い作品です。
AmazonPrimeVideo→麦の穂をゆらす風 (字幕版)
○『ブレイブ・ハート』
メル・ギブソン監督主演で、こちらはアイルランドではなくスコットランドの歴史ドラマ。しかしながら、この時代から続いているのかと驚愕する英国の非道をスコットランド側から見ることができます。スコットランドはその後併合されてしまい独立国ではなくなりました。そのような点も含め、現在も独立を保っているアイルランドや英国、その他周辺民族との関係を窺い知る助けになります。メル・ギブソンが快演。ヒーローものとして歴史を知らずとも楽しめる作りになっています。
AmazonPrimeVideo→ブレイブハート (字幕版)
ということでまとまりなく今回のレビューは終わります・・
ともかくアマゾンかU-nextで探してみてください>>Amazon prime video『ベルファスト(字幕版)』
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