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【映画レビュー】『ラッカは静かに虐殺されている』人間の残虐性の極地が映されるドキュメンタリー

あまりに直視が辛すぎて、目を覆い煎餅を口に突っ込んだ。ISISへの抵抗組織の衝撃的ドキュメンタリー

『ラッカは静かに虐殺されている』のラッカという町はどこにあるか?すぐにシリアだと答えが出るだろうか。この映画を見終えた後ならばそれはYESになるだろう。
なぜならば、このドキュメンタリーはあまりに残虐なシーンまでも克明に捉え、提示している。直視できないほどの残虐行為を同じ人間が行なっていると知る時、その場所と名前は二度と忘れられないものになる。

2014年にシリアのラッカという街がイスラム国、通称ISISに乗っ取られた。映画の日本での題名『ラッカは静かに虐殺されている』は、その時に結成された現地の抵抗活動団体Raqqa is Being Slaughtered Silently (RBSS)の和訳だ。彼らの抵抗活動をありのままに写し、世界へ状況を伝える映像。原題は『CITY OF GHOSTS』

 

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人として、みることがキツくなる映像の数々が真実を伝える

このドキュメンタリー映画はRBSSの活動家が自ら撮影した映像やISISが放送したものを主体としている。その中には実に生々しく、直視することが憚られる映像がある。ニュースではモザイクが入るが、この映画では画面は何も隠されていない。今回のレビューはそういった厳しい側面も書いていくので心臓の弱い方は注意されたい。また、ネタバレもしていますので未視聴の方もご注意ください。

ラッカは静かに虐殺されている
Raqqa is Being Slaughtered Silently

ほんの少しだけ頬が痙攣のように一瞬吊り上がる笑顔。それはもう心の底からの笑顔を忘れてしまった人の見せるものだ。この映画には目の下の消えない影とでも言おうか、深い悲しみと恐怖を抱いたものたちが登場する。
映画の冒頭で非常にキツい処刑の場面が流れる。ISIS(イスラム国)による公開処刑の映像だ。広場での見せしめに後頭部を撃たれる人間。崩れ落ちるように倒れる拘束された人々。地面に流れる血と影。首を切られ、寝かされた死者。公開処刑後に頭部だけを吊るされた柵。全てが公道で、ありのままに写っている。

抵抗団体であるRBSSのメンバーにも危険がおよび、彼らの一部は国外へ逃げ出す。外からラッカの内情を世界へ発信するためだ。しかし、ISISの影響力は強く、国外でも脅しが来る。居場所を特定した脅迫メール。仮の住処を変え続ける生活。命の危険。仮住まいから仮住まい、そして仮住まいへ。

シリアでISISがゲームのように行う暗殺が映される。まるで映画『俺たちに明日はない 』の車を蜂の巣にするシーンのごとく銃撃される車。射殺。そして、字幕に語られる文字。

「現実でできることをゲームでやるか?」

この国ではシューティングゲームは売れないのだ。それはすぐそこで、現実に起こっていることだから。
家族が処刑される。それでも国外からISISの非情を伝え続けると決心するRBSSの活動員たち。

 

<人間の残忍なおこないを視聴しながら>

あまりの映像の残酷さに度々目を覆い、机の上にあった煎餅を口に突っ込んだ。それは味わうためではなく、この悲惨な映像からくる脳の衝撃をどうにか誤魔化さなければという突発的な行為だった。このドキュメント映像は、これまでにみた映像で最も醜い人間の所業を捉えている。本当に現代に同じく生きている人間の仕業であるとは、認めたくないほどの惨たらしい行い。残酷で残忍な拷問と虐殺の数々。決してポップコーンを食べながら呑気に眺められる映像ではない。吐き気をもよおす。

トルコへ逃げた活動家はやがて、そこでの活動にも殺害の危機を感じ、ドイツへと逃れることを決める。しかし、ドイツではメルケル首相の政策に不満を持つドイツ市民もいる。彼らは移民・難民排除の動きを見せ、シリア難民を追い出すデモ活動を起こす。シリア人は出ていけとシュプレヒコールを上げるドイツ人の中での生活をやむなくされるシリアの人々。
直接映画で触れられることはないが、もちろん、ベルリンや他のドイツの都市にも彼らシリア人難民を助けるために尽力する人が多数いることも覚えておきたい。シリアが多数の難民を産んだ時、最初に受け入れを表明した欧州の強国はメルケル首相の率いるドイツだったのだから。
一方欧州の各地でテロ行為を増していくISIS。記憶に強く残っているのはフランスはパリのレストランでの爆破。ドイツのクリスマスマーケットでのテロ行為。これにより多くのヨーロッパ人にも死者が生まれた。
そんな状況の後、Raqqa is Being Slaughtered Silentlyのメンバーたちは活動のレベルを引き上げ、国際社会に顔を晒してラッカの惨状を強く訴えていくことを決める。活動家が素顔を見せてメディアに出演し、シリア、ラッカの情報を世界へ流している行為を広く知ってもらうのだ。それは、彼ら自身というよりも未だ恐怖の中で勇気を持ちながらラッカで暮らす人々のために。
世界のメディアが注目する式典に顔出しで登場した活動家たちには暗殺のターゲットとして狙いが向けられる。彼らは自制では抑えきれない恐怖に、か細い筋肉を震わせながらそれでも決して諦めることなく、活動を続けていく。普通の大学生や教師であった人々が、こうして自らの故郷のために命をかけて活動していく姿をこの映画は克明に写したのだ。

もし、我々にできることがあるとするなら、それはまずこの悲惨な映像に目を背けず一時間半直視することかもしれない。

非常にショッキングな映像が頻出しますので未視聴の方はご注意ください↓
ドキュメンタリー映画『ラッカは静かに虐殺されている』は2022/12現在、AmazonPrimeVideoにて視聴可能です。

 

最後に、もう一本見るならこの映画コーナー

ドキュメンタリーではありませんが、現代のパレスチナの青春と悲惨な人間的環境を描いた力作『オマールの壁』はいかがでしょうか。
イスラエルによる支配の中で一生を牢屋で過ごすか、それとも同胞の中で裏切り者として生きるか、極限の選択を迫られる若者の姿。劇映画ではあるが、決して、おとぎ話ではない実際のパレスチナに即した映画です。100パーセントパレスチナ資本で制作された意欲作です。

では、また次回の映画レビューでお会いしましょう。

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