【映画レビュー】『シビル・ウォー』若手カメラマンがフィルムカメラの理由とは
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』で扱われるカメラ二種類の表現について考察してみました。
この記事では「なぜ若手カメラマンがニコンのフィルムカメラで、ベテランがソニーαのデジカメなのか?」だけに特化して書いていきます。もしかしたら、こうかもという考察です。ネタバレも含みますのでご注意ください。
本編全体の視聴感想はこちらに書いてます。
なぜ若手がフィルムでベテランがミラーレスカメラなのか?
まず、二人の使っているカメラについて書きます。(一度みただけなので機種間違っていたらすみません)
リーのカメラ
ベテラン戦場カメラマンであるリー(キルスティンダンスト)はSONYのαシリーズのカメラを使用しています。SONYの文字は消されていたようですが、αのロゴと根本のオレンジ色のリングはしっかり写ります。望遠と広角の二台持ち。
ジェシーのカメラ
一方若手の新人カメラマン、ジェシー(ケイリースピーニー)はニコンのF2(だったと思う)フィルムカメラを使います。
ジェシーはお父さんから譲り受けたカメラを使っている訳です。この点にあらゆるものが込められているように思います。
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ジェシーのフィルムカメラが表すもの
それは第一に、お父さんのカメラで撮るという子供っぽさ、あどけなさを残している象徴。あるいは写真に対する憧れで写真を撮っている未熟さ。
そして第二に、戦場をフィルムで撮影するという非合理な優先事項が、若手カメラマン、ジェシーの中で、戦場での成果に対する優先性を上回っていないということ。
ジェシーは戦地で撮影したフィルムを休息地で現像液につけてフィルム現像します。それをさらに風で乾かし、その後でスマホに繋げた(?)携帯型のフィルムスキャナーでデジタルとして取り込む。ここから先は映画では描かれていないけれど、ジェシーはSNSなどに写真をアップしたり新聞社、メディアへ送って作品として公開しているのだろうと想像できる。
フィルムでとることとは?
お父さんがカメラを使っていた時代には「それしかなくて」そのフィルムカメラを使っていた訳ですが、ジェシーはデジカメの時代にネガの質感を大切にして(優先して)撮影している。果たしてそれは、芸術よりの写真家としてではなく、ジャーナリスト、戦場カメラマンの態度としてはどうなのだろうか?
普通に考えれば、手巻きの連写もできないようなフィルムカメラでは貴重な撮影タイミングを逃す確率が高くなる。先日のトランプ前大統領暗殺未遂の写真が話題になったが、あれが手巻きのフィルムカメラだったらどうだったか?撮れただろうか?
ともかく、歴戦の先輩たちからすれば、現代においてフィルムで報道写真をするなど「あり得ない選択」のはずだ。しかし、リーはダメ出しもしないし、むしろ暖かい目でジェシーを見始めます。「素晴らしい写真」と褒めさえする。
これはどういうことなのか。
リーにも憧れで写真を撮影していた時代があった懐かしさだろうか。若い自分をみているような。確かにそんなシーンもあります。姿の見えない狙撃兵に狙われているとき、リーは犯人のいる場所よりも、兵隊たちに近づき危険を冒しながら撮影するジェシーを芝生に伏せったまま眺めます。カメラを構えようともせず、芝生にリラックスして横になり、ジェシーを眺める。その目線がなんというか、かわいいものを眺めつつ、寂しさを抱えているような複雑な表情なんです。いいシーン。
そして、少しずつ若手のジェシーが恐怖やショックといった人間性を消していき撮影にのめり込んでいく中、ベテランのリーは人間性を取り戻していきます。報道カメラマンとして必要であった資質、冷徹であること、悲惨な現場を客観的に冷静に眺め、ただ起きていることを撮影すること。その必須な資質をリーは手放します。再び普通の人間に戻ります。温かい血の通った人間味を取り戻していきます。それは、ある意味でフィルムの温かさです。デジタルでは切り捨てられてしまった人のもつ曖昧さ、繊細さ、温もりの表現があるフィルムの姿勢です。
少し面倒で時間もかかるし、好機を逃すかもしれないけれど、写真のプロ、報道のプロである前に一人の人間としての純粋な気持ちを優先する。そんなアナログの世界に戻ってきた象徴のように感じます。
つまり、フィルムのもつ温かみがリーを報道人から普通の人へ生き返らせる種だったのではないか?
その結果起きたことがラストシーンなのではないか?
若いカメラマンを教えるという映画ではなく、もしかしたら現代人が失ってしまったもの、報道と人間性、本当に選ぶべき大切なものはどちらなのか?という問題提起にも捉えられなくはない点です。
評論家の町山さんが監督インタビューで聞いた話によれば、ジョーがニコンのフィルム機を使う理由は「かつての報道カメラマンがニコンのカメラを使っていて、それがカッコよかったから(意訳)」という理由が本当だそうです。ですので製作者側に上記の意図はなかったかもしれませんが、私にはそう感じる部分が映画の中にありました。
さてみなさんは二人のカメラをどう捉えましたか?
また次の映画でお会いしましょう〜
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