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【映画レビュー】全米が内戦に?!『シビル・ウォー』アメリカがアメリカを倒すとき

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視聴速報!『CIVIL WAR アメリカ最後の日』が描く米国の闇とジャーナリズム

この映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は報道カメラマンがアメリカで起きた内戦を撮りまくるお話。なのでとにかく、戦闘シーンが多いです。みんなで大統領を殺しに行こうという状況の、アメリカに起きた革命の世界が舞台です。むしろアメリカが世界中で好き勝手にやってきたことがアメリカ内部で自らに起こったというシチュエーションのドラマ。*この先、少しだけネタバレしますので気にする方はご注意ください。また後半ではさらにネタバレがあるのでもう一度注意表示を書きます。

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『シビルウォー』あらすじ

主人公は前線へ向かう経験豊富な戦場カメラマン(リー・スミス)。ところが彼女の元にうら若い報道カメラマン志望の女子ジョエルがやってきます。戦場が始めてのジョエルには全てが驚きの連続。お話は主にこの二人を中心に進みます。
キルステン・ダンスト演じる主演の先輩カメラマン、リー・スミス。彼女に引けをとらないようなんとかついていく若いカメラマンをケイリー・スピーニーが演じます。

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戦場というものの激しさと興奮と恐怖を、ひよっこ写真家のジョエルはまだ知りません。各地での戦争の恐ろしさを知っているリー・スミスは、若いジョエルを連れていくことに、迷いを持ちます。しかし昔の自分をみているように感じるのか、リー・スミスは彼女を見捨てるわけにもいきません。そんななか報道陣は軍隊と流れる血痕とともに最前線へと近付いていくのでした。監督はアレックス・ガーランド。

 

『シビル・ウォー』ここがみどころ

アメリカ人がアメリカでアメリカ人を殺す。
かつてそんな戦争映画があったでしょうか?アメリカによるアメリカの潰し合いを描いた点が秀逸です。大きな敵対国に対峙するのではなく、国内でいがみあう内戦状態。新鮮です。

そして、主人公たちが報道陣というのも視点がいいです。常にカメラを持ち、カメラ目線での戦争の酷さを写していきます。とはいえ、2024年の映画なので、これまでの戦争映画とは一風変わっています。

 

ここが不思議で面白いよ『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

主人公と共演者である二人の女性は共にカメラマン。しかし、それぞれ使っているカメラは異なります。
主人公のベテランカメラマン(リー・スミス)はデジタルカメラのソニーを使います。(ロゴは見えないけどボディにα7の文字とオレンジの輪っかが確認できます。

逆に若い駆け出しカメラマン(ジョエル)は古いニコンのF2。フィルムカメラです。この辺りのどこか逆転したようなカメラ事情も今っぽくて面白いです。

それから特徴的な点として、音楽があります。劇伴は悲惨な戦闘の場面でも流れるのですが、悲惨な映像の流れる画面とは異なり、その間ながれる曲はまるで若人の青春映画をみているような、陽気な雰囲気の曲なのです。この悲惨と陽気、楽観的な曲の対比も見どころです。

ただ、最初と最後の曲はSUISIDE(スーサイド/アラン・ベガとマーティン・レヴのロックバンド)の静かに燃えたぎるようなマグマを感じる楽曲が使用されていて、そこも良かった。ルー・リード味のあるボーカル、Alan Vegaの声がクセになるのでSUISIDEブーム再び来るかも?

アラン・ヴェガ音源 Live At Rockpalast, 1982 + Alan Suicide: Collision Drive 2002 (A film by Lucia Palacios And Dietmar Post) [Analog]

 

そして、「誰が誰を撃っているのかわからない」というようなやりとりが兵隊との間にあるのですが、これがこの映画の肝というか、重要な点なんですね。誰が味方で誰が敵なのか分からない。姿が見えないけど「向こうが撃ってくるからこちらも撃ち返す。ただそれだけさ」というようなやりとり。この恐ろしさを映画としてはあえて軽快に描くことで、戦争や憎しみの怖さが、いとも簡単に起こり、洗脳されるという事実を「戦場の悲惨さ」だけを伝える映画ではない視点から描いた作品です。

 

シビル・ウォーの『ここが気になる』点
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上記でも書いた挿入歌なのですが、どうも歌詞つきの歌が流れるときは左側のスピーカーから音が出ているように感じました。センターでもなく明らかに左によった声。これは国を転覆させる左よりの革命を歌でも表しているのでしょうか?または、片側の声だけを聞くことの危うさの表現?(それとも私の見た劇場だけスピーカーのバランスがおかしかったとか?気になるので誰か教えてください)

 

*この先さらにネタバレだいぶします。まだ見てない方はご注意!

 

女性陣のタフネス崩壊し、立ち位置が入れ替わる瞬間がある

この点も興味深いです。当初おっかなびっくりしながら手探りで戦場写真をとっていたジョエル。それに対し、ここぞという決定的瞬間を軍人の動きに合わせ狙い済ましたように撮影するベテランのリー・スミス。ところが、この二人のタフネスと落ち着き、立ち振る舞いが入れ替わる瞬間があるのです。それは経験豊富だからこそのトラウマのようなものなのか、それとも年齢なのか。いや、それはベテラン報道写真家として、これまで取材してきた各国の惨状が、自分の国の首都であるワシントンD.C.で起こっているのを見たからではないか。銃撃戦の最中、ビルの隙間に立ち尽くすキルスティンダンストの眼差し。

一般の人間としての目線(若手カメラマンの半分素人の目)→現実を、冷徹な目で捉えるジャーナリスト(リーの目線)→再び人間へ戻ったリーの目線。そんな図式が後半に見えます。
戦争カメラマン(ジャーナリスト)でいるためにはまず自分を押し殺してしまわなければ、残虐な現実をカメラに収めることはできない。感情を殺して沢山の現場を経験してきたリーの眼差し。しかし、そんな歴戦のリーにも次のピークが来てしまう。次の段階。つまり、恐怖を消して冷徹な眼差しでいられなくなってしまう瞬間がくる。そして、ベテランカメラマンのリーはどうなるか?

一人の人間にもどるんです。

怖いものは怖い、悲惨なものは悲惨だと純粋に受け止める人間にもどります。そして、ジャーナリストではない行動をとることになります。それがラストです。ジャーナリストが優先すべきことではなく、リーは真っ当な人間ならこうするかもしれない、という行動にでます。
この二人の関係性が入れ替わる瞬間。そしてリーが再び戦場カメラマン、ジャーナリストではなく、人間にもどるシーンが見逃せません。

 

『シビル・ウォー』の、ちょっといまいちな点

若い女性カメラマンが綺麗すぎ。(ケイリー・スピーニー)
とても戦場にいる人間には思えません。それがだんだん汚れて目が死んでいくとかでもなく、単純に綺麗なままギラギラしていく。ちょっとありえない気がしました。もっと打ちのめされるだろうなと。

そして、内戦がみせる人間の酷さがあるのですが、ちょっと主人公たちに甘すぎるような場面もあります。大混乱していて、盗人だって沢山現れるはずなのに、車移動は不用心だし、襲われたり、逃げるシーンでも「それはちょっとどうなのよ、都合よくない?描写が甘くない?」という場面がちらほらあります。シリアスなシーンで、ちょっと笑っちゃいました。
軍用車や装甲トラックが複数台止まっているようなところに、警備に気付かれることもなく現場に近付ける?隊列組んで歩いて行って見つからない?などなど。

 

全体として

「もし、アメリカが内戦で革命が起きたら?」という視点の面白さはあります。そして、そうなったら混乱するアメリカの人々はどんな反応を持って生活しているのか。その点をジャーナリストの目線で描いたところがユニークで面白かったです。日本では仮に内戦になってもこんな風に現実を伝えていくタフなジャーナリストやメディアがあるだろうかと、ちょっと羨ましくも感じる部分がありました。

そして、極限におちいった人間が犯す過ちは、いつの世界でもかわらず、それを映像や写真でありのまま伝えるのがメディアというものだ、報道というものだ。そんな視線の映画でした。

たんなるアクション映画ではなく、見終えたあとに色々と考えさせられる視点を提供してくれる映画です。もうすこし、シリアスで現実味のある作りだったらさらに引き込まれたかもしれませんが。

 

では劇場でお楽しみください。

 

 

 

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