初心者バズメンくんのカメラ実験と映画日記です。

cinema_and_books映画&ブックレビュー
映画&ブックレビュー

【アマプラ映画レビュー】タイカ・ワイティティ『ボーイ』は観るべき?それとも?


ボーイ(字幕)

 

ニュージーランドの寂れた田舎町の映画『ボーイ』と貧困、笑いの影の寂しさについて

今回のアマプラ映画レビューは前回の『イーグルVSシャーク』に引き続きタイカ・ワイティティ作品です。独特なユーモアと楽しい映像に溢れた作風の監督ですが、今回の映画はどうでしょうか?
*こちらのレビューは色々とネタバレがあります。未視聴の方や気になる方はご注意ください。

 

sponsored link

『ボーイ』のあらすじ

ニュージーランドの貧しい田舎に子供だけで暮らすボロ屋がある。子供たちのリーダーはまだ小学生だ。それでも弟や山羊の面倒を見ながら彼らなりに楽しく暮らしている。父親は刑務所にいるのか不在で母親は弟の出産時に亡くなってしまった。弟はそのことで心に負い目を感じ、外では言葉少なく他者と積極的に関わらずに生きている。

ある日、不良仲間を連れて父親が帰ってくる。彼は家のそばの空き地にお金を埋めた記憶があり、それを掘り起こしにきたのだ。中途半端な不良でクズな父親だが、兄はそんな父親であっても帰ってきたことが嬉しい。父の運転するかっこいい車の助手席に座り、友人たちの前へ乗り付けることを誇り高く感じている。
町は寂れた商店があるくらいで、ろくな仕事もなく畑と海ばかり。子供たちだけでなく大人もやる気を失っているような田舎。父は隠したはずのお金が見つからずにイライラし、やがて盗みを働く。繊細な時期を過ごす子供たちと、ダメな父親がニュージーランドの片田舎で過ごす短い時間を、島国ののどかな風景の中でコミカルに描いていく。

 

映画『ボーイ』のポイント(原題Boy)

主人公は兄弟の兄の方で、彼を中心に話が展開していきます。しかし、実際には弟と父親に隠れた主役な面があると思います。弟と父は共通の負い目と悲しみを心に持っているからです。父親は妻を出産で亡くしていて、その責任は妊娠させた自分にあるとどこか感じている。弟は自分が生まれてきてしまったことで母を殺してしまった。自分が生まれなければお母さんは生きていて、お父さんもお兄ちゃんも幸せだったのに。そう感じている。
二人の傷の隠し方は対極的です。父は陽気に振る舞い、無鉄砲な生き方をすることで寂しさを隠している。弟は友達をつくらず、一人でひっそりと生きることで悲しみをしまっている。兄はそんな二人をじっと見つめながらも、孤独な寂しさと責任感に潰されないように威勢よく振る舞いながら生活している。

ダメな父親と健気な子供というよくある設定の映画ですが、ニュージーランドというあまりメジャーな舞台には頻出しない場所が良い下地となり、監督自身がそうであるように、ネイティブの血と白人の血の交差した特別な、しかし貧しさの根源でもあるかもしれない状況が映画に深みを与えています。

 

監督の育った国ニュージーランド

描こうと思えばどこまでもシリアスに描けるほどの貧しさのある内容ですが、ニュージーランドという独特の設定と監督自身が育った土地を描きたかったという通り、愛嬌のある建物や景色、友人たちの個性を通して、ニュージランドという国の一部を和やかに発見できる内容となっています。
悲惨な貧しさを全面に出さず、その貧困の中でもそれぞれに楽しみや友人、薄い希望のようなモノを持ち合いながら生きている。そういう現実をコミカルにのほほんと描いていることは、監督が舞台俳優でもあり数多くのコメディー作品を残していることにもつながっているのではないか。インタビューでは「人々が笑っている姿が好きなんだ」というような発言もありますので、自身の作品で誰かを笑顔にすることをとても誇りにしているのだと感じました。

ワイティティ監督のインタビュー記事→『ハワイ国際映画祭時のインタビュー』

 

『ボーイ』を観たことで起こること

 

バズメンくんは映画を見てちょっとニュージーランドへ行ってみたくなりました。それは貧しさを覗きたいとか、そういうことではなくて、監督の育った風土、今回の映画を通して彼が見せたかった心象風景と、僅かなひととき重なり同化してみたい気が起きたからです。
カイカ・ワイティティ監督が映画や演劇で他人を笑わせようと試みるのは、この『ボーイ』に描かれた少年や父親が他者にはそっと隠していた何か、寂しさや人知れずに抱えた孤独といったパーティーの光には照らされない何かが、彼の心のうちにもひっそりと仕舞われているのではないか。そんなことを考えさせる映画でした。

今作『ボーイ』はワイティティ監督の他作品にもどこか通底する、コミカルさの影でそこはかとなく漂う寂しさについて、考えるきっかけになるかも知れません。長編第二作目ということで、『マイティ・ソー バトルロイヤル』などハリウッドの大作になればなるほど見えづらくなるそういったあれこれが『ボーイ』にはまだ十分残っている。
現在こちらの作品はAmazonプライムビデオにて視聴可能ですのでまだの方はご視聴の上、感想をコメントください→『タイカ・ワイティティ監督作品 ボーイ(字幕)

では、また次のバズメンくん映画レビューでお会いしましょう。同監督作品『イーグルvsシャーク』のレビューは過去記事のこちらで読めます。

 

 

Category : 映画&ブックレビュー

コメントを残す





ブログ一覧へ戻る