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【映画レビュー】スペインの貧困母子を若手アーティスト自身が監督主演した『エル・プラネタ』


エル プラネタ

かつて貧困をこんなに軽やかにサラッと描いた映画があっただろうか。アルゼンチン生まれの若手芸術家アマリア・ウルマンの白黒ファッショナブル映画

映画のみではなくアートもこなす!大学で美術を専攻したアマリア・ウルマンが制作から出演までこなしたデビュー作。

アマリア・ウルマンはロンドンの美術系大学を出た後、展示やパフォーマンスをしていたアーティストで、今作『エル・プラネタ』が映画初作品。

アルゼンチンで生まれた監督自身が一時期生活をしていたスペインの田舎で今回の映画を撮影。実際の母親が母役をするなど親近感の溢れる現場だったようです。ファッションや芸術に志向のある彼女の視点をモノクロ撮影で通した映画作品になっています。

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『エル・プラネタ』あらすじ

公共料金の支払いを遅延させたり、食べるものも不足しがちな貧しい家庭で母親と二人で暮らす主人公レオ。彼女はファッションが好きで自分で服を作り、アーティストとして世界で活躍する夢を抱いています。
しかし、彼女の家庭は貧しく母親も神経を病み始めています。母親は万引きの常習犯で、刑務所の食事は美味しいと聞いていて、そこへ入っても良いとさえ思っています。主人公のレオはそれでも母親が好きで、放り出してはおけない存在。そんな彼女が母と二人暮らしをしながらスペインの田舎で気になる男性を見つけたり、お金の工面をしたり、貧しさに涙する姿を描きます。

 

この映画に残る違和感

どうも違和感があります。もしこの映画を「貧困を描いた」と言ってしまうと、失敗した映画だと思います。貧困がひしひしとは伝わってこない。本当の貧困を知らないのではないか、うわべの貧困ではないだろうか、そんな風に見えてしまいます。
というのも貧困の割にはiPadは持っているし、カードで靴や服を買いに行くし、服も電化製品も貧しい人の雰囲気ではない。

多分、この人たちは割と最近まではある程度裕福な暮らしをしていたのだろう。裕福ではないまでも、極貧を長く続けた人たちではないと言うのが画面で分かります。

顔が綺麗で、貧困の影がないというのもあるし、母親が皮のコートを一着だけ持っていてそれをこれみよがしに着て出かける姿にもそんな感じを受けます。どうやら主人公の父親がいなくなってから貧しくなったらしいのです。しかし、そのことは深く語られないので真相はいまいちわかりません。

彼女にはどうやら才能があるらしく、NYでの展示の仕事を頼まれたりすることもあります。飛行機代がないので行けないのですが。ただそのことも映画としてどうなったかの説明はありません。例えば体を売って飛行機代を稼いだのか、それともそこまではしないのかなど。というのも冒頭にそれを匂わすシーンで始まる映画としてのフリがあるからです。

そして映画の最後ではスペイン王家の映像が出てくるのですが、それもあまり意味を感じることができません。できるとすれば母親の毛皮から考察して、親、王族側の立場なのかな。没落して貧乏になったのを認められず虚構の生活を続けているのかな?などといったところでしょうか。
ここもよくわからないのです。

 

なんとなくな映画

なんとなくファッショナブルな感じ、なんとなく貧しそうな感じ、なんとなく才能がありそうな感じ、なんとな苦難となく。そんな映画です。若干モヤッとします。なんとなくよくわかったようなわからないような。良いような悪いような。

映画で貧困を描くなら、いかにそれが酷いか、いかに貧困を撲滅させる必要があるか、といった目線での主張を色濃く描いた映画が多かったと思います。しかし『エル・プラネタ』(El Planeta)では軽めの貧困をサラッと描いています。絶望までは至らない貧しさ、サラッと感。これを映画で見せるというのはあまりなかったように感じます。その点では新しい視点と言えるかもしれません。監督が意図しているかはわかりませんが貧困をサラッと描くことには十分成功していると思います。

とはいえ三十代という若さで映画一本を完成させるのですから実力があるといえます。若者の感覚で今を掴んだ映画です。各方面にもう少し深みが増すと映画としての力強さが倍増すると思うのですが、将来に期待といったところでしょうか。
町の切り取り方や画面の作り、静かな絵などをファッショナブルに見るにはいいかもしれません。

 

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