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【映画感想】オッペンハイマーをより楽しむ超ネタバレ解説!!クリストファー・ノーランの超えた一線

2024-03-29

『原爆の父 J・ロバート・オッペンハイマー』を通してノーランがみせたもの

ノーラン監督がやってくれました。この映画がアメリカで大ヒットしたということは喜ばしいこと、希望のひとつがまだ残っていることではないかと感じます。
きょうは初日に劇場でみた『OPPENHEIMER」の感想と解説をネタバレ満載で書きます。未視聴の方はご遠慮ください。

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アメリカでの大ヒットが喜ばしい理由

アメリカが、落とした側から原子爆弾の話を描いた映画として、この映画が現地でヒットしました。映画『オッペンハイマー』はアメリカが原爆開発に成功し、敵国からアメリカや世界を救ったのだ、そして「ヒーローは俺たちのオッペンハイマーだ」という映画ではありません。

むしろ、彼を自分勝手な想像力に溢れた稚拙で弱い人間として描きます。原爆を落とすことに成功し、スピーチを求められるシーンがあります。彼の登場を待って地響きのように足を踏み鳴らす聴衆。その足音はそれ以前のシーンでも度々使われ、恐ろしい軍隊の行進が近づいているような印象を観客に与えます。しかし、実際にはその音は一般大衆、アメリカの戦争中の一般大衆のかなでる足音だったのです。つまり、当時の「世論」の音だった。

原爆が広島で成功し、無事に爆発したこと、これで戦争が終わるだろうことを喜ぶ世論の、爆裂する足音のなかで、オッペンハイマーは我に帰ります。スピーチの段上から見る観客たちの嬉々として喜び叫ぶ顔。そこでひとつの悲鳴が聞こえます。

大切なシーンで、ノーランらしいうまさのある場面です。映像は喜ぶ群衆を映しながら、一つだけ響く叫び声。まちがっても喜びではない、悲惨な悲痛な叫び声がひとつだけおこるのです。そこで突然我に帰ったオッペンハイマーは自分のしでかしたことの重大さを知ります。祝福している人々の顔の中に広島の被害者が浮かびあがります。歓喜の声が泣き声に、熱い抱擁が悲しみのうなだれた抱擁にかわります。オッペンハイマーにやっとその過ちがのしかかってきます。

 

クリストファー・ノーランのきめ細かい演出

見逃せないシーンがあります。僅か1秒かもしれませんが、オッピー(劇中でオッペンハイマーがそう呼ばれる)の元カノが自殺をこころみ、亡くなるシーンがあります。睡眠薬を飲んだ後で水を張った風呂桶に顔を突っ込み、窒息死するつもりなのです。ところが、窒息する前に顔を上げようとします。苦しい、やはり自殺はできない・・そう思った瞬間何者かの手が一瞬写り、彼女の頭を再び水の中に押し込んで彼女は死んでしまいます。

しかし、映画では一瞬なので誰が殺害したのかということがほぼ取り上げられません。「軍の機密を漏らす可能性のある人物をCIAか何かが抹殺したのではないか?」という印象を、気付いた観客にだけ抱かせるシーンです。
いやもしかしたら、それはCIAではなくて、オッペンハイマー自身が彼女を蔑ろにし、いいように弄んだ結果の報いとして彼(オッペンハイマー)が間接的に殺したのだというシーンなのかもしれない。

 

わかりにくいと言われるだろう映画の構成と登場人物

ノーランの映画でわかりやすいものはあまりないので、わかりにくさでこの映画を見るのやめようという方は少数だと思います。

この映画は大きく三つの時代を回想する形で描かれます。

一つ目は原爆を開発する真っ最中の時代(学生時代から開発・成功まで)

二つ目は原爆が成功した後に水爆の開発を止めようとする時代(終戦の立役者、ヒーローとなりつつも、水爆に反対するころ。ここではむしろロバート・ダウニー・Jr.が主演級です)

三つ目はソ連のスパイとして訴えられ聴聞会に呼び出され断罪されていく時代(狭い密室でのシーンが主)

この三つです。ちなみに二つ目の時代のみ白黒の画面で描かれます。フラッシュバック的に何度も時代や場面が入れ替わるので一見分かり辛く感じますが、そこだけおさえておけばそこまで複雑な作りでもありません。むしろテネットの方が一度では全然わからない作品だと思います。

 

配役の見事さ

 


Unleashing Oppenheimer: Inside Christopher Nolan’s Explosive Atomic-Age Thriller

 

どの役者も演技が上手いのはある程度当たり前のレベルとして、それぞれが立ち位置に見合った演技を心得ている感じを受けました。ロバート・ダウニー・Jr.がアカデミー賞を受賞してその演技が褒められるのも十分わかるのですが、他の、もう少し出番のすくない役者陣が素晴らしい。出過ぎず引きすぎずの見事な塩梅です。
たとえば、オッペンハイマーをスパイだと疑うボリス・パッシュ役のケイシー・アフレック。出番は三時間のなかでいうと僅かでしたが、疑ういやらしい表情と、静かに目線で心の隙に刺し込んでくる演技、秀逸です。彼はベン・アフレックの弟で、マット・デイモンが抜擢した『マンチェスター・バイ・ザ・シー』での演技もよかった。

そして、同じくらい少ない登場でしたが、ラミ・マレック(クイーンの映画『ボヘミアン・ラプソディ』や『007』でも好演)も良かった。序盤でチラッと姿をみせ、独特の表情で印象を与えておきつつ、後半の見せ場のシーンで輝きを放つ見事さ。

 

『オッペンハイマー』の音楽

ちなみにオッペンハイマーの音楽はチャイルディッシュ・ガンビーノの『This is America』をプロディユースしたルドウィグ・ゴランソンが担当。彼は『テネット』の時からノーラン監督の映画音楽を担当している。しかも、『テネット』はハンス・ジマーが『DUNE 砂の惑星』を引き受けたために手にしたポジションだったそう。(出典:https://realsound.jp/2020/10/post-644183.html)
個人的にはハンス・ジマーよりゴランソンの方がいいと思う。ゴランソンが『テネット』を引きうけたことで、『オッペンハイマー』もゴランソンが担当できた。そして映画としても『DUNE Part2』より圧倒的に『オッペンハイマー』の方が良い。新たな時代の波を感じます。ちなみににDUNE Part2の感想はこちら→DUNE2視聴感想

ゴラソンは他にもディズニー系の仕事もしていて、スターウォーズのスピンオフ作品『マンダロリアン』のシリーズを担当。シーズン1の耳に残るすこし民族色の入ったメインテーマを作曲した人でもあります。

音響はノーラン作品を多数手がけているリチャード・キング。彼のサウンドエフェクトの素材はこちらやSoundCloud、ユーチューブ等でも聴けます。効果音を販売もしてるみたいです。
オッペンハイマーでは足音が重要であったりと、音の映画でもあるので気になるかたは彼らの作品をSpotifyなどで聴いてみてください。

 

 

映像美や視覚アイディアの独自性はどうか?

ノーラン監督の映画といえば、独自のカメラワークや技術を駆使して見せるその映像としての面白さが作品の特徴としてもあげられるかと思いますが、今回のオッペンハイマーはどうか?

はっきりいうと、映像美や画面の目新しさでいうと過去の作品の方に軍配があがるでしょう。インターステラやテネット、インセプション、メメント。作りの斬新さでいえばそれらの方が見応えがあると思います。
もちろん、前半の核融合を脳内で再現するイメージなどは素晴らしく、流石ノーラングループだと思わせる映像クオリティでした。が、どちらかというとそれを売りにはしていない。むしろダンケルクの作り方に近い。

ただ、クリストファー・ノーラン監督が一線を超えたなというのもそのあたりに感じました。

 

一線を超えたノーラン監督作品

ダンケルクは、その若干の分かりにくさ、一度限りでは一瞬「なんだ?」となるような時間軸の細切れを再配置した作りが、単に手法としての面白さ止まりだったように感じますが、今回のオッペンハイマーは時間を振り返ること、時間を切ることがより必然な作りになっていると思います。

一人の人間の思考過程、興味の発露から想像力の欠如、成り立ちや弱さといったものへの没入の重要な観点として「時間」がつかわれているように思います。これはダンケルクが「細切れに時間を入れ替えしなくても立派な作品を作れたのではないか?」というような疑問を感じさせたのに対し、なくてはならない「時のあやつり」をノーラン監督がみせた真骨頂ではないかと思います。

今回の映画でクリストファー・ノーラン監督が超えた線があると思います。それは、単純にエンターテイメントやアクションとしても大ヒットさせてきた彼の過去作や、手法を捨て、「世界にとって本当にひつような映画」をつくる監督として超えなければならない線だったのではないか。
原子爆弾の発明という人類の一線を超えた刻印を、オッペンハイマーによって描くことで、彼自身が自分を縛っていた映画のひとつの括りを解き放った瞬間。

今回の作品『オッペンハイマー』は、いずれノーラン監督を振り返るときに、必ずその堅牢な礎として語られる一本になった。さらに高い位置へ辿り着いたノーランの最初の一歩として。

 

監督の今後の活躍がいっそう楽しみになった映画でした。まだの方は音の良い劇場で是非ご覧ください。
ちなみにアマゾンプライムでみられるオッペンハイマーのドキュメンタリーがあるのですが、字幕が最悪なんですよね・・
いちおうリンク貼っておきますが英語できる方以外はつらいかも(アマプラドキュメンタリーへのアフィリンク)→本物のオッペンハイマー

Category : 映画&ブックレビュー

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