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【映画レビュー】”憎めない男の心温まる話”では全然ないコメディの顔をした恐怖映画『サンダーロード』


サンダーロード(字幕版)

面白おかしいコメディ映画だと思ってみたらサイコパス映画だったジム・カミングス監督作品

みなさん、これね公式サイトとかがうたっている宣伝文句に騙されちゃいけません。ポスターに書かれた文句「不器用で憎めない男の、可笑しくも心温まる可笑しくも心温まる」なんてことは微塵もありません。はっきり言って、「完全にホラー映画」です。コメディの姿を借りた恐ろしい話です。ある意味稀有な作品と言えるでしょう。さすがサンダンス映画からのまわし者です。
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まず、『サンダーロード』のあらすじから書きますが、この時点ではコメディな雰囲気なんです。アマプラの宣伝文句もコメディな調子でしたし、実際コメディ・ドラマというジャンル分けがされています。しかし、この映画をコメディと捉えている人は全然この映画を理解できてないと思います。そのわけを含めて今日はご紹介していきます。

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映画『サンダーロード』あらすじ

母親を失った失意の中、葬儀を行う息子。彼は警察官なのだがどうも葬儀式典の様子がおかしい。というのもキリスト教の教会で棺を前にした彼が踊り出すのだ。それは母親が生前好きだった曲に合わせた躍りらしいのだが、カセットデッキが壊れて曲がかからない。そんな無音の中で、歌を歌うでもなく奇妙に下手くそなダンスを踊る主人公。参列者は彼を奇異な目で見始め、そのことで彼の人生が少しずつ狂っていく。やがてその踊りをきっかけにして仕事や娘の養育問題が不幸へと進む。稲妻のように激昂する彼は果たして人生を取り戻せるのだろうか。

というのがあらすじなのですが、この映画を紹介する多くのサイトでは不器用な男と娘の心の通わせだとか言って、ハートウォーミング映画だと断言しています。しかし、実は全然そんな心温まる映画ではありません。その理由と証拠をみていきましょう。*ここからはネタバレしますのでご注意ください。

映画『サンダーロード』のサイコでホラーなところ

ハートが温まる映画ではないことをここに紹介していきます。まず、主人公の男性はしがない警察官です。その警官が出勤してすぐに警察部長みたいな人に家に帰されます。作品序盤のシーンです。もうここで普通の昇進街道に乗った真っ当な警官ではないことがわかります。問題を抱えた警官なのだなと。
彼は母を亡くして落ち込んでいるわけですが、彼には姉がいるはずなのに姉は葬儀に参列すらしていません。普通に考えてあり得ないと思うのですが淡々と物語は進みます。多分この一家全体がおかしいのかもしれません。

そして、彼は激昂して自らを失うタイプの人間だということが段々と明らかになっていきます。娘の養育権を争う裁判で、裁判官に挑戦的な態度をとってしまったり、友人との喧嘩で感情が昂ったままついには拳銃に手をかけてしまうまで精神が荒ぶります。
元嫁には「線路で轢かれて死んでしまえばいい」というニュアンスを込めた皮肉をサラッと言ったりします。おっかない人なんです。そして精神の不安定さが波のように入れ替わり立ち替わり訪れます。それを演技で見せるわけですけど、本当に怖い。泣きじゃくった直後に普通の顔に戻ったり再び顔をこわばらせたりを繰り返す姿。完全に精神の不安定な状態です。監督自身が主演を務めているのですが、長回しのセリフと共に精神の激しい起伏を見せる技術はなかなかです。

主人公の精神異常を表すシーンあれこれ

彼の精神異常状態が現れるシーンはいくつもあります。例えば子供のことで面接に呼び出された学校のシーン。最初は静かに聞いていたけれど、気に触ることを言われると、担任の先生に向けて机を振り上げて脅すような真似をします。先生は温厚に対処しますが、そっと自分の近くにあったハサミをポケットにしまいます。先生は彼が異常者だと分かったからです。

また主人公は友人に向けてピストルを手に持ってしまったことで警官をクビになります。さらに彼は養育権も失い、一人きりの家で自暴自棄な生活を過ごします。それがもう本当に異常すぎるのです。普通の人の姿ではありません。なんと、冷蔵庫の扉が外れるまで冷蔵庫と格闘したんだそうです。冷蔵庫が家に入り込んだ不審者だと思ったと言ってボコボコに格闘して壊す。他にも机やソファーをひっくり返し暴れた形跡が残る中で生活している。こんな状態の父親とどうして娘が一緒に暮らせますか?「不器用で憎めない男のハートフルな心温まるコメディ」?バカをおっしゃい!サイコパス。完全に異常者です。

そして、極め付けは終盤に現れます。職も失い、娘の養育権も失った主人公でしたが、別れた妻が死んでしまうという事件が起きます。その妻の姿を発見したのはまだ幼い小学生の娘なのです。しかし、どうやら彼が娘を引き取ることになるらしい姿で映画は終わります。怖すぎます。薬の過剰摂取、オーバードーズで死んだ母親と居合わせ、心に傷を負ったであろう娘。精神が不安定でサイコパスの気がある父親。この二人がこれから一緒に暮らすのです。全く心が温まるシーンではなくて、ゾッとするシーンです。この二人の将来を考えると恐ろしくてしょうがありません。そこで映画は終わります。悲劇を予感させたまま。

『映画の宣伝者は反省して』

ほんと反省してください。この映画の宣伝で「不器用で憎めない男の、可笑しくも心温まる」なんてキャッチコピーをつけた方。おかしいですよ。
この映画はアメリカの闇を描いたものでしょう。これといって特別な才能のないしがないサラリーマン(ここでは警官)が、日々の仕事のストレスや薬漬けの元妻と、娘の養育問題で心を蝕まれる。一般的ではない思考を持つ人がグループ社会の中で生きることの生きづらさ。やるせない数々の出来事。普通の健常な人であれば友人や家族と共に自己の内で消化し、段々と落ち着きを取り戻していくはずの日々の出来事が、彼の場合は精神の錯乱に油を注いでしまう。そういった恐ろしい現実を描いた作品です。

この映画の特徴として、画面の色使いがフラットなところがあります。これはあえてそうすることで、悲しみや悲劇をより一層現実的に、淡々と表現しているように思います。画面に劇的な変化をつけないことで、むしろ恐ろしさや違和感を漂わせている。これは監督の手腕だと思います。もう少し他の作品も見てみたい監督です。全然コメディではありませんが、気になた方は是非。
こちらAmazonプライムビデオで視聴できます→コメディーの皮を被ったサイコパス警官の映画『サンダーロード(字幕版)

心が温まりたい方は同じサンダンス映画出身でもこちら↓過去記事ですが、黒人映画三選の記事中にある『ラスト・ブラックマン・イン・サンフランシスコ』がおすすめ。サンフランシスコの黒人社会を描いた青春映画で、社会風刺を織り込んだよくできた作品です。
『アマプラで見るアフロアメリカンが主人公の黒人映画三選』

*情報は2023/08/06時点での内容です。

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